fc2ブログ

PiCNiC/岩井俊二監督作品


監督・脚本/岩井俊二

主演/Chara 浅野忠信 橋爪こういち


岩井俊二監督の『PiCNiC』を観ました。同監督の映画を観るのは、『花とアリス』『リリイ・シュシュのすべて』に続いて三回めです。いやはや、何と言っていいのか、やばかった、としか言えない。何がやばかったかは、ここでは言えない。観てほしい。意味が分からないというかもしれませんが、それでも観るべき映画だと思います。
勿論、強要はしませんが。

岩井俊二は天才です。作家として小説も何作か出したりしているらしいですが、少なくとも映画監督としては天才的に巧いです。

まず、その映像。
冒頭、老人らしき人物が道路に薔薇をいっぽんいっぽん置いていくシーンから始まる。その薔薇を車が踏みつけ、精神病院らしき施設に入っていくシーンへとかわる。
このシーンも、いろんな意味ですごいなあ、と思います。
(たぶん)主人公であるココは、ふたごの妹を殺して、この施設に収容されることになった。彼女はそこで、ツムジとサトルという青年と出会い、世界の滅亡をみにいくために、塀の外には出られないので塀のうえを歩いて、ピクニックに出かける。
概要を説明したらこんな感じでしょうか。たったこれだけの映画なのですけど、何なんだろうこの悲しみは。
この映画から印象にのこったシーンを選ぼうとすると、もう数えきれません。それくらい、この映画は「映像」として優れています。
ココが塀のうえを走ったりする場面でさえも素敵です。教会の牧師との出会い。世界の滅亡をみにいくことを決めたシーン。サトルの死ぬ場面。雨の場面。そして最後の場面。
何なんだろ、この美しさは。美しいだけじゃなくて、映像の端々から奇妙なものが垂れ流されているようです。
ツムジは自分の殺した小学校の担任の幻覚に毎晩悩まされており、その担任が出てくるシーンは秀逸である。すばらしくグロテスクで、気持ち悪い。
その後ろの部屋で、牢越しに自慰にふけるサトルの姿も印象的です。
それから、雨のシーン。
ツムジとココが何かを話しているのですが、雨のせいでよく聞きとれない。でも、そんなのは問題じゃないんです。
台詞が聞こえなくても、その映像だけで、もういいんです。
ツムジのよこで雨をあびるココと、幻覚に苦しむツムジ。その映像のなんと、残酷なこと。
俺は不思議に思うのですが、いまの日本の映画やドラマは、「お約束ごと」に囚われすぎているような気がします。登場人物の台詞はちゃんと聞き取りやすくし、話の展開をわかりやすくし、俳優にはキメの展開を用意する。それは、別にいらないと言うわけではありません。否定はしたくないです。
でも、もう飽きました。つまらないし、うんざりする。辟易する。まだ小説を読んでた方がましです。
岩井俊二は、それらお約束ごとに囚われず、かといって無視もせず、うまく使いこなしている監督だと思います。

つぎに、色彩。
ココの着る服。患者たちの着る服。施設の暗さ。空の色。木々の鮮やかさ。教会の神秘的な雰囲気。
どれを取っても素晴らしいです。
特に結末の、太陽の夕陽とカラスの羽が舞う場面は、映像と色彩が融合し、圧倒的な美しさと悲しさに支えられている。
ジャン=リュック・ゴダール監督も、このような撮り方をしていると聞きました。
これら色彩の綺麗さと、曖昧さが、この作品のひとつの見せ場でもあります。
俺はいままで、こんな映画を観たことはなかった。一時間ちょっとの映画なのに、それなのに、この悲しみ。
映像や色彩に関しては、狙いすぎと言われても仕方ないでしょう。しかし、それでいいのです。物語の展開や台詞に気を使いすぎて、逆に陳腐化された映画より、はるかに感動的です。
映像だけで人を引きつけられるのだと、初めて実感しました。

この映画にストーリーはさほど重要ではないように思います。そりゃあ「塀のうえを歩く」という設定はすばらしいですが、でも基本的に、この映画にあるストーリーはそれだけです。
それなのに、物語。
どうしてたかが60分ちょっとの映画で、これだけ人を引きつけ、感動させ、絶望にたたき落とせるのでしょうか。悔しいほどうまい。
岩井俊二の作品は、その映像や色彩や音楽の美しさゆえに、希望があるように見えます(特に『リリイ・シュシュのすべて』などは)。しかし、本当はたぶん違う。
本当は、そこはかとなく絶望的なのだろうと思います。
映画のストーリー的な問題ではありません。
それら絶望や悲しみを、ここまでシュールに、ここまで美しく撮影できる岩井俊二の技量に、俺は何度でも感動する。
もう十年くらい前の映画ですが、古さは感じません。
いまでも、この映画の悲しくて哀しくて愛しい映像が映えています。

いまそんなことができる監督は、岩井俊二と、青山慎治くらいしか思い浮かびません。
彼らはいまの映像業界で画期的な(「画期的」というのは、本当はおかしすぎるのに)、まっとうなやり方で映画を撮る、稀少なアーティストだと思います。
芸術とはつまり、「約束ごと」をつくらないことなのではないでしょうか。

スポンサーサイト



by 竹永翔一  at 10:42 |  映画 |  comment (3)  |  trackback (0)  |  page top ↑
Comments

良いブログですね^^

ブログ拝見しました。とても素晴らしいブログですね。
これ、作るのすごい時間かかったんじゃないでしょうか?
内容も充実してますし、ブログ作るのも大変ですからね。
私もブログ作っていますので、ブログ作りの大変差も楽しさも
わかってます。すごく良いブログだったので、思わずコメント
してしまいました。また、じっくりと過去の記事なども読ませていただきます。
by ナンパ師 2007/11/04 12:07  URL [ 編集 ]

ナンパ師さんへ

コメントありがとうございます。
すっごい名前ですねぇ(笑)
ぜひまた来てくださいね。
by 翔一 2007/11/04 12:37  URL [ 編集 ]

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです
by  2009/04/27 23:45   [ 編集 ]
Comment Form
管理者にだけ表示を許可する